彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
つぶあん
「おい‼︎右だかんな‼︎」
「何度も言われなくても分かってます‼︎」
「右、左、右の順だぞ‼︎」
「分かりました‼︎でもちょっと、きつく縛りすぎじゃないですか?」
「こんなもんで根を上げんじゃねーよ‼︎」
「根とかの問題ではなく、効率の話です‼︎」
「つべこべ言わずに俺についてくりゃいいんだよ‼︎」
「西山さん、彼女いませんよね?」
「なっ⁉︎」
「そういう古い考え、時代錯誤もいいところですよ」
「じゃ、伊達さんは彼氏いるわけ?」
「なっ⁉︎」
「もうちょっと、可愛げあったほうがいいぜ」
してやったりのニンマリ笑うのが、鯛焼きの中からもわかった。
なんせ、私の右足と西山の左足は紐できつく結ばれているため、必然的に顔と顔も近くなる。
「やっぱり私、帰ります‼︎」
「おまっ、今更なんだよ‼︎」
「紐を、どうか紐を解いて下さい‼︎」
「無茶言うな‼︎」
鯛焼きの中の小競り合いをよそに。
「さぁ、始まりました、ゆるキャラ博覧会‼︎全国屈指のゆるキャラがここに集います‼︎みなさんの町のキャラは出てくるかな?ゆるキャラ総選挙の前に、惜しくもトップ10入りを逃しました(コゲコゲ君)に登場して頂きましょう‼︎」
「行くぞ‼︎せーの‼︎」
勢いに押されて、私は右足を踏み、ん?踏み、んんっ⁉︎
踏み出せない‼︎
西山の左足が動かないからだ。
それどころか、右足を出した西山に引きずられてバランスを崩して前のめりに倒れた。