彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
平べったい鯛焼きごと、床に突っ伏す。
これもツカミだと勘違いした会場からは、大爆笑が。
「何度も何度も、右って言ってんだろうが‼︎」
「ふ、普通、私のほうの足を言いません⁉︎私、不慣れなんだから、私のほうの足を言うべきです‼︎」
「とにかく起き上がんぞ‼︎」
腕立て伏せの要領で体を起こし、そこからスクワット。その間、鯛焼きという重しが肩にのし掛かる。
これはもう、次は立ち上がれない。
「いいか、右‼︎じゃねーや、お前の、いや右だ」
「紐?紐のほうでしょ⁉︎」
「そうだ、いくぞ」
お互い頷き合い、そろりと紐で結ばれた足を出す。
1、2、1、2と掛け声を合わせ、ステージ中央に着いた頃にはもう、身体は干からびてしまった。
「さぁ、みんな大好き鯛焼き、コゲコゲ君には特技があります‼︎」
「コゲコゲはなくないですか?」
小声で耳打ちする。
「鯛焼きはちょっとくれぇ、焦げたほうがいいんだよ。いいか、尻尾めがけて体を伸ばせ‼︎」
「えっ⁉︎」
「いくぞ‼︎」
西山がこれでもか‼︎と頭のほうへ両腕を伸ばした。私も遅れて、尻尾に腕を突き刺す。
びろーん、と鯛焼きが伸びた。
「これ、伸縮するの⁉︎」
「どうだ、スゲーだろ‼︎」
「うん、でも体勢が…」
「休んでるヒマねーぞ‼︎」
西山の声に被さって、あの誰もが知っている鯛焼きソングが流れ出した♪