彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
それからすぐ、値段交渉に折り合いがついたのか、各キャラクターたちがゾクゾクとステージに現れ、ゆるキャラ博覧会は無事に終わった。
しかし。
「ゆるキャラのタブーをおかしたな」
「すみませんでした」
ここは、しおらしく謝った。
いくらあれが完成形とはいえ、子供の夢を壊したのは事実だ。
「ネズミの国のネズミは、ぜってぇー顔を出さない」
「はい」
「お前にゆるキャラのなに語れんの?ちょっと昔にゴボウかじったくれーで」
「…はい」
私も、ゆるキャラを演じた端くれ。どれだけ中が大変か、痛いほどわかる。力加減を知らない子供の蹴りや、永遠に終わらない撮影。それでも陽気に振る舞わなくてはならない。
目の前の、憎たらしいだけだった(コイツ)の言葉が、素直に心に染み込んでくる。
「ま、けど、鯛焼きが口からウ○コしたって、大ウケだったけどな」
ヤツが笑った。
初めて、私に笑いかけた。
なーんだ。
笑うと可愛いじゃない。
少し悔しい思いを引き連れて、私は控え室を出た。