彼の鯛焼きにはあんこが入っていない


いや、彼なんて(コイツ)には勿体無い。


パイプ椅子にふんぞり返り、腕組みをして直立不動の私に睨みをきかせ、仕出し弁当のご飯が白米でなくて赤飯であることに憤怒している。


えーっと確か。


西山って苗字だ。下の名前なんてどうでもいい。


ここを出たら、二度と会うことなんてないんだから。


「話、聞いてんの?」


尖った声で、脳内に描いていたビールの泡が消えた。


「あ、はい、聞いてます」

「てかさ、お前から話を聞きたいって来たんじゃねえの?」

「伊達です」

「はぁ?」

「伊達美沙です。さっき名刺をお渡ししました」


にっこりと笑う。それがたとえ営業スマイルでも、道を切り開いてき___。


「うそくさいな、お前の笑顔」


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