彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
「なんだお前、帰ってきたのか?」
店のおじさんは、怒らなかった。
「とりあえず体を暖めろ」
おいらは鉄板に寝そべった。
海もいいが、ここもあったかい。しっくりくる。
「怒らないのか?」
「お前らが何処に行こうと、お前らの自由だ」
「…おいらにアンコ入れてくれよ」
アンコがあれば、あの笑顔が見れる。もう見れなくなる寸前の、あの笑顔。
けど。
「無理だ。一回、腹を閉じちまったもんはな」
「また開けばいいじゃないか‼︎」
「諦めるんだな」
「そんな…」
おいらには、もう居場所がないんだ。
海にも、鉄板にも、もう、居場所がない…。
「すみません、鯛焼き二つ下さい‼︎」
元気な女の声が。
「いらっしゃい‼︎いつも悪いね。あんたらのお陰で、売り上げいいんだよ」
「そりゃ、俺のお陰だな。あ、大将、俺のアンコなしね」
「鯛焼きなのに、アンコ食べれないって、大将はどう思います?」
「うるせーな‼︎アンコなしがいいんだよ‼︎」
「ちょうどいい焼き具合の、アンコなしがあるよ」
おじさんが、おいらにウインクした。