彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
「はいよ、アンコなし」
「おおーっ‼︎これこれ‼︎」
お客の男が、おいらを食べた。
「シッポから食べるのは慎重で気が小さいのよ」
隣の女は、アンコ入りを頭からパクつく。
「頭から食うのは、大雑把なんだよ。て、今日のアンコなし、また塩気が効いてて美味いな‼︎」
「ずっと笑ってればいいのよ」
「なんか言ったか?」
「なんにも。でも美味しい‼︎」
「笑った時だけ可愛いのな」
「なにか言いましたか?」
「なんも」
最後の一口を放り込む。
放り込まれたおいらは、なんとも言い難い、あったかさに包まれていた。
おいらは鯛焼きなんだ。
アンコがあっても無くても。
人を幸せにする。
鯛焼きなんだ。
(鯛)