彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
それでも微動だにしない口角。頬の筋肉は僅かばかり震えているが、顔ヨガしていると思ったら問題はない。
私は力づくでさらに口角を押し上げ、一枚のアンケート用紙を西山の前に差し出した。
「ご協力お願いします」
だいたいが反射的に受け取るものだが、そこは、かの西山さん。
赤飯以外をきっちり平らげ、両手が空いているにもかかわらず、その手は爪楊枝に伸びた。
あゝ、アンケートより、シーシーですか。
さっさとバインダーに用紙を戻し、他の参加者の方に協力を…。
「俺の他に誰も居ねーよ」
そうだ。この控え室にコイツしか居なかったんだ。
「ちょいとばかし冷房止めたくれーで、なに逃げ出してやがんだって話」
「でも暑いですもんね」
6月なのに猛暑日が続き、この一見、広いが窓一つ換気一つない控え室は、サウナと化していたための一言が、西山に火をつけた。
「バカ言うな‼︎あん中のが比べもんになんねーくらい暑いだろうが‼︎」
西山がビシッと指差すかたわらには___。