彼の鯛焼きにはあんこが入っていない


いや、鱗は凹凸を重ね、尻尾は反り返り、それをただ焼き色で強引に塗り上げ、柔らかみが皆無なので、どちらかというと深海魚に近い。


リアルの意味を履き違えている。


「それにさっきのアンケートなんだ⁉︎貴方にとって(ゆるキャラ)とは何ですか?」

「はい、それを基に全国の市町村を発展させるのが私の務めで」

「何ですかも何も、俺はアレに命かけてんだよ‼︎お前ら、俺の税金で飯食ってんだから、予算もっと回せよ‼︎」


ほらきた。


俺の税金。


市長だった石田先生の秘書をしている時からそうだ。事あるごとに、税金税金税金。


私もきっちり払ってますから‼︎


子供のようだが夢に溢れた石田先生と共に、ゆるキャラで町おこしに励んだ(詳しくは、ゆるキャラを読んでね)が、突然、忍者になりたいと先生は姿をくらませた。


きっと今頃、手裏剣を投げていることだろう。


それから私は市の職員となり、ゆるキャラの魅力を全国、全世界に発信するため、今回も(ゆるキャラ博覧会)にお邪魔をしたのだ。


ゆるキャラに対する思いは、誰にも負けない自信がある。


商工会議所の職員であり、自称、博覧会のリーダー的存在である西山は熱弁する。


「鯛焼きっていうのはな、俺が子供の時から愛されてきたキャラの王道、王様ってやつだな。それを改良に改良を重ね、2人で演じることによって、今までのゆるキャラにはない動きで____」


帰ろう。


そそくさと背を向けたと同時に、ドアが勢いよく開いた。




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