彼の鯛焼きにはあんこが入っていない


「なんだと‼︎」


西山が立ち上がった拍子に、パイプ椅子が吹っ飛んだ。


暑い。


いや、熱い。


小太りのスタッフに詰め寄り、博覧会の主催となにやら揉めている。


私はそれを遠巻きに眺めていた。


「サッちゃん、もっと熱くなっていいんだよ」


よく石田先生に言われたものだ。


子供の頃から、こう、ローテンションというか、LIVEや観劇でも、胸がカッと熱くなるということはない。


非常に冷ややかな子供だった。


西山が怒鳴り散らしている。


今回の博覧会においての、並々ならぬ思いを熱弁している。


なぜだか私は、こしあんを思い描いていた。焼き立ての鯛焼きの中に入った、粒あんではなく、こしあん。


それをこのクソ熱い中、食べることを思うと、喉が焼けるようだ。


すなわち、西山がそれだ。


タンクトップで日に焼けた筋肉を誇張し、白いタオルを頭に巻き、黙っていれば、まぁ、そこそこイケメンなのに、どこかで導火線に火がつくのを待ち構えているタイプ。


すなわち、私が最も苦手とする、それだ。


しかも。


「お前のせいじゃねーか‼︎」


どうやら私が、導火線に火をつけたらしい。



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