彼の鯛焼きにはあんこが入っていない


ヤツの言い分はこうだ。


市の予算が少ないため、冷房も節約し、博覧会の経費をケチり、ゆるキャラの中で汗だくのバイトたちへの賃金もカットしたがため、ボイコットが起きたのだと。


いやいやいや。


私はただの地方の職員で、休日にもかかわらず、アンケート調査のため実費でやってきた。


「責任取れよ‼︎」


さすがに口角は上げなかったが、だんまりを決め込むことにした。


こういう輩は、同じ土俵に上がってはダメだ。


身勝手な有権者を嫌というほど見てきた。黙って相手の目を見つめていれば、火は鎮火する。


私はしばらく西山とにらみ合う。


絶対に目を逸らすものか‼︎


「お前、なにガン飛ばしてんだよ‼︎上等じゃ___」

「もうすぐ開演します‼︎」

「なっ⁉︎」


あっさり逸らした西山。


「じゃ、俺が食い繋いでおく‼︎」


慌てて鯛焼きの着ぐるみを頭からほっかむる。


しかし、貴方は言ってませんでした?改良に改良を重ねて、2人で演じるって。そりゃ、尻尾のほうがベローンとなって、なにやら彷徨い求めるように、鯛焼きの目玉が泳いでいる。


私は周囲を見回した。


小太りのスタッフと、主催者のおじいさん。そして私と、半分、項垂れている鯛焼き。


おのずと鯛焼きと見つめ合う。




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