彼の鯛焼きにはあんこが入っていない
「私、やりましょうか?」
「お前に出来るわけねーだろう‼︎」
「じゃ、失礼します」
軽く一礼して、そそくさと___。
「ちょ、待てよ‼︎」
鯛焼きに呼ばれた。
「まだ何か?」
「てか、早くね⁉︎断んの早くね⁇」
「いや、私には出来ないって言われたんで」
「いや、そこを、んでもやってみてぇー‼︎っていう根性がだな」
「あいにく、持ち合わせておりませので」
失礼いたします、と深々、頭を下げる私に。
「やっぱ、お嬢さんには出来ねーか」
鯛焼きが言った。
あくまで鯛焼きだ。
大きい目玉の奥の、小憎たらしいヤツの目を見る。
「ゆるキャラの4割は女性が演じています。テレビで活躍しているキャラも、中には女性が演じているものもあります。男女の問題ではなく、素直にモノを頼めない人と何かを創り上げるつもりはありませんから」
再び頭を下げ、背を向け、控え室のドアを開けた。
なんだ、それだけの男だったんだ…。
ちょっと寂しく感じながら、控え室を出た。
「頼む‼︎‼︎」
振り返ると鯛焼きが、これでもかと頭を下げていた。