ラブレッスン
『渡した封筒の中にアイツの店の名刺入ってたでしょう?

見てなかったんですか?』





店の名前は覚えてるけど、行くつもりはなかったし、名前までは覚える気もなかったわ。





「ごめんなさい。確かに失礼よね。
会ったばかりの男の名前を呼ぶなんて。

しかもあなたのお友だちですもんね。気を悪くしたなら謝るわ。」





『別にそんな事で怒ってる訳じゃありませんよ。』





「じゃあ何故?」





名前で呼ぶのが失礼じゃないなら。




何故あなたはそんなに不機嫌なの?











問いかける私から気まずそうに目を逸らしてまた私の手をキュッと握った。





『何でもないです。今のは忘れて下さい。』





そう言って歩き出した結城歩に戸惑いながらついて歩いた。





忘れてくれって…


何だったの一体?






問い詰めたい気持ちはあったけれど





夜になってもまだ蒸し暑い中、繋いだ結城歩の手がヒンヤリと気持ち良かった事と





さっきよりもゆっくりと歩いて、時おり振り返って私を気遣ってくれるその仕草がなんだかくすぐったくて。




何も聞かずにこの心地よさを味わっていたくて





ずっと無言で結城歩の後ろをついて歩いていた。



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