知ることから始まるんだ!
夜の7時になり、明日奈が店を出ると、呼びかける声がした。


「そろそろ帰るんだろ。
買い物するか?それともまっすぐ帰る?」


「えっ?夏川先生・・・。
もしかして、待っててくれたんですか?」


「いや、ちょっと大学に生き物を見にいった帰りだから。」


「智樹くんは、どうしたんですか?」


「いるよ・・・家に。
今頃は何か食わせてもらってるんじゃないかなぁ。」


「ご自分で見てたんじゃなかったんですか!」


「見てたよ。だけど、仕事はやらなきゃいけないだろ。
智樹もずっと俺ばかりといたらストレスたまるだろうから、今はメイドさんにかわいがってもらってよろこんでたよ。」


「かわいいメイドさん・・・っているんですか?」


「いるよ。
子守りも得意だし、智樹がやってくる日は頼らせてもらってる。」



「そ、そうだったんですか。」



「じゃ、私は最初に使わせてもらってた部屋にもどれますね。」



「明日奈は研究室の隣だ。前の部屋は物置状態になってるし。」


「困ります。どうして先生の研究室の横のままなんですか?」



「ファンだとかストーカーはひとりとは限らないだろ。
だから俺の目の届くところでいい。」


「あの、べつに部屋についてあれこれいうつもりはありませんけど・・・せめて私に相談くらいしてほしかったですね。
私のことなんですし・・・。」



「はっ・・・す、すまん。
俺は・・・ひとり暮らしが長いせいか、誰かと相談とかしたことがなくて。
使用人相手だと、やってほしいことだけをいうだけだし。」



「あ、いえ・・・先生に謝ってほしくて言ったじゃありません。
言い過ぎました。
私がお世話になってる側なのに。」


「そういう遠慮はするな。
住んでいい許可を出したのは俺だから、ちゃんと自己主張してもらわないと困る。
だから、嫌なことがあったらメモを出しておくように言った。」


「ぷっ・・・ほんとに不器用な先生。
結局、私のためにしてくれたことなんでしょう?
ありがとうございます。」


「礼なんていうなよ。これからはきちんと相談するから。」


「えっ?(先生って女性と会話するのがすっごく嫌だったんじゃ?)」



翌朝、そのかわいいメイドさんは台所で明日奈に朝食を作っていた。


「あ・・・の・・・どうして・・・私?」


「幸樹坊ちゃんが女性をこの家に住まわせるなんて、ほんとに驚きましたけど、こんなにきれいな娘さんだとはねぇ。
お会いしたら納得しましたよ。
あ、私は夏川家で昔お手伝いをしてた坂野千代っていうんです。
今は旦那様と奥様がフランスにお住まいなので、ときどきここでお手伝いをさせてもらってるの。

智樹坊ちゃんをみていてほしいって連絡があったので、やってきたんですよ。」


「そうだったんですか。」
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