知ることから始まるんだ!
車を駐車場に止めてから明日奈が連れていかれたのは、かなり大きな動物園だった。


「あ、やっぱり・・・」


「やっぱりって、もしかして予想してた?」


「もちろん!」


「だけど、今日は体温計とか道具は持ってないから。
あくまでもお客さんだ。」


「どうして?」


「いつも見てるだろ?
今日は、いつもと違うとこ見せたいから。
あははっ、といいながら動物園ってバレバレだったけど。」


「動物園って久しぶり。
先生と会ってなかったら、行く機会がなかったかもしれないわ。」



「まさか。君はたまたま居た世界が華やかで、デートしようと思えばたくさんできただろう?
視点が動物園に向かない間柄の人間が多かっただけの話さ。」


「そうかしら?
ただ、デートはたくさん・・・なんてできなかったし、したいと思う人もいなかったわ。
お父様のアシスタントの仕事が終わったら、お父様をマッサージに連れていったり、次の仕事の準備をしたりで、気がついたら家にもどって寝るのがやっとだった。」


「それは気の毒だ。
海や山を見たり、生き物と接すればいい癒しになるだろうに。」


「そうね。
それだったらある意味、ストーカーに追いかけられたおかげで癒されたのかもしれないわ。
兄さんには痛い思いをさせちゃったけど・・・。
わっ、大きなサル山だわ!」


「人間社会を感じないか。
ボスがさりげなく監視してるけど、個々のサルはそれぞれに性格があって、友達に好かれてるヤツ、かかわるのが苦手なヤツもいる。

そんな小さなサル社会を見て、人間は自分の置かれている場所を再確認したりしてさ。」



明日奈はいつもよりも楽しそうに個々の動物について説明してくれる幸樹に驚いていた。

(男の人って自分の好きなことや得意なことをしゃべるときってほんとに活き活きしてる。
けど、先生って自分で気づいてるのかなぁ?
動物の話して、笑ってるときってすごく子どもっぽい表情になるって。

学者だから難しいことをしゃべっているのに、子どもが自慢話してるような・・・目をキラキラさせて。)



「ごめん、俺ばかり夢中になってるみたいで。
黙ってきいてばかりで嫌になるだろ。」


「ううん、研究室にいるときよりはしゃいでる先生といると楽しいわ。
私はお料理の仕事してても、そんなに楽しそうに語れないもの。
もしかしたら、そういうのが嫌なのかもしれないって思うことだって・・・。」



「だったら・・・そのときは俺が男の料理作ってやるから。」



「はぁ?ぷっ、あはははは。
私が先生とこにお世話になってから、けっこういろんなお魚のお刺身をごちそうになったし、きいたことない深海魚のフライも作ってもらったのに?」


「嫌なのか?」


「逆よ。何が出てくるのか、ドキドキわくわくしてる。
それもけっこう、いいリフレッシュ効果が出てるかもです。」


「それならよかった。」
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