知ることから始まるんだ!
動物園を歩き回り、街に出てとあるブティックの前に差し掛かったとき、明日奈は宣伝用のディスプレイに足を止めた。


「うわぁ、きれい。
あっ・・・でも私こんなの着て出かけるところなんてないんだった・・・。
当分、パーティーなんて縁がなさそうだし。」


さぞ、そんな自分を見てあきれているだろうと思った明日奈が振り返ると、幸樹がいなかった。


「あれ?何か気をひくような店があったのかな?」


歩いてきた道を5mほどもどった店の裏口前で、幸樹の胸にしがみついて泣いている女性の姿があった。


「うそ・・・何よ。」


幸樹はすぐにもどってきた明日奈の姿に気づいて、何かをつぶやいたようだったが、明日奈にはそれが何かわからずに、気がつくと明日奈は兄のいる喫茶店にきていた。


「明日奈・・・どうしたんだ?
今日は、大家さんの仕事の手伝いじゃなかったのか?」


「えっ・・・う、うん。」


「そうか、終わったから来てくれたんだな。
そんなに今日は忙しくはなかったけど、手伝ってくれるか?
看板娘がいる方が店は繁盛するからな。」


明日奈はすぐに着替えて、店に出て働き始めた。


そろそろ閉店という頃になって、幸樹が店に現れた。


「ごめん・・・迎えにきた。
夜は危ないから。」


「今日は、兄さんとこに泊まるから帰りません。」


「いきなりびっくりさせてすまなかった。
けど、もし君が誤解して怒ってたのなら、それだけただしたくてさ。」


「誤解?べつに・・・先生が誰とどこで抱き合ってたってそれは私には関係ないことだから。
でも、抱き合う前に先に帰っててくらい言ってほしかったわ。」


「だから、彼女は俺の彼女じゃない!
俺の同僚の彼女だ。
同僚の子どもを妊娠したらしいけど、結婚するには金がないってそっぽむかれたらしい。」



「それでどうして、先生に抱き付くの?」


「わからない・・・それと、今夜俺の家に泊めてくれないかと。」


「それでわからないって・・・じゃあ、今夜に期待していたらどうですか?
きっと先生はすぐにその人のお子さんのお父さんになれますよ。」


「なっ!そんな悪い娘には見えなかったけど・・・。
あ、けど・・・明日奈がそういうなら彼女は千代さんにお願いするとしよう。」


「えっ!?はぁ?」


「千代さんなら、人を見る目もあるだろう?
子どもがお腹にいる女性なら、きっと千代さんの方がいい接し方できるだろうから。」



「ぷっ、もう・・・先生ったら天然なんだから。
わかりました。先生と千代さんを信用して帰ることにします。
兄さん、積もる話は延期ね。」


「ああ、わかった。
あ、明日奈・・・明後日なんだけど、店のこと任せていいか?」


「いいけど、何か用なの?」


「う、うん。お見合いなんだ・・・。話をもってきたのは親父の友達なんだけど、気に入ってしまってな。」


「そ、そうなんだ。じゃ、がんばらないとね。
店は任せて。あとで、話もきかせてね。
じゃ、おやすみなさい。」
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