知ることから始まるんだ!
明日奈は優奈にお礼を言った。


「あなたにも和樹さんにもお礼を言わないとね。
私、ここに来させてもらって、助かったわ。」


「あの、兄貴は何ていってるんですか?
明日奈さんがここにいて迷惑そうな素振りをしてるんですか?
それとも嫌味を言うとか?」


「いいえ、ストーカーからも助けてもらったし、朝ごはんまでごちそうになってるくらいよ。
ほんとにお世話になっているの。
でも・・・もうお世話になる意味がないもの。
それに、先生はボディガードではないんだもの、研究をして学生さんたちに教えてあげなきゃ。」


「そうでしょうか?
兄は、あなたに居てほしいから、部屋も隣にしたのだろうし、何か言ってませんでしたか。」



「それは・・・私につべこべ言ってほしいって。」


「はぁ?」


「ご、ごめんなさい!
私、早めに出ていくから、和樹さんからそのときは・・・よろしく言って。」



「ダメですよ。
兄貴がつべこべ言ってくれといってるんでしょう。
まずは、言ってやってください。

じつは幸樹はまだ恋愛の失敗を引きずっているんです。」


「それは誰か好きな人がいたってこと?」


「ええ。ほんとに兄貴は彼女に夢中で、大好きな生き物たちの世話も忘れていたほど・・・。

でも、彼女は兄貴の親友だった男と関係があった上に出産費用のために兄に近づいた。
痛手はお金だけならまだよかったけど・・・お金が思うように入らないと思ったら、兄貴の親友を捨てて子どもを中絶し、・・・そのうえ兄貴に呪いの言葉を放ったんだ。」


「呪い?」


『人間に愛される人間かどうか自分をよく理解してから、近づくのね・・・。』って。」


「ひどい!!」


「兄貴の親友は自殺未遂をして、田舎に療養に行ったまま。
兄貴は生き物を愛する学者なのに、抜け殻同然になって・・・あのとき相棒だった宗太郎を死なせてしまったんだ。
あ、宗太郎ってカメレオンなんだ。
幸太郎の前の相棒みたいなね。
宗太郎の痩せ細った姿を見て、ますます兄貴は仕事ばかりの人になった。

もうどんなことがあっても生き物は守るって思ったのはよかったんだけど、人間の女性には興味がなくなってしまったみたいで。」


「だけど、私には親切にしてくれたわ。
ストーカーだって逮捕されたし。
今だって守ってくれるために、研究室の隣に私の部屋を。」


「そうですね。俺もそれを知ったときびっくりしました。
あんなに女嫌い状態だった兄貴が、自分から歩み寄るなんて!
俺がいうのもなんだけど、明日奈さんはとてもきれいで兄貴はそれを無視できるほど鉄壁な鎧は身に着けていなかったということじゃないかなぁ。」


「そうよ。お姉ちゃんはテレビでお父さんの後ろにいてても、問い合わせが来るくらい美人じゃない。」


「優奈、何いってるの?
あなたは美人で聡明で私にはできない計算とか経済のニュースにも詳しくて。
私にはとてもそんな難しいことできないのに。」
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