知ることから始まるんだ!
明日奈は幸樹がポケットから無造作に出したものを見て驚いた。


「石じゃなくて・・・カメだったのぉ!!」


「うん、陸ガメだから、冬眠を気にすることもないよ。
育て方はマニュアルをあげるし、困ったらファックスかメールでも送ってくれれば説明するから。」


「わぁ・・・この子はオス?」


「メスだ。かわいがってくれよ。
俺のお気に入りの彼女だからな。」


「名前は?」


「じつは・・・昨日家に持って帰ってきたばかりでまだついてない。」


「じゃあ、奈々!奈々にする。」


「明日奈に奈々か。
じゃ、2人でがんばってきて。」


「はい。先生も教授のお嬢さんと・・・」


「もうそれは勘弁してくれって。
あれは君に妬かせたくて・・・だな。」


「えっ?」


「教授と話はしようとは思う。
しかし、自分の父親の名前で俺を釣ろうと思っている女は願いさげだね。
君もきいていただろ。
ああいうのは、一番嫌だな。
まだ、金がいっぱい入ったアタッシュケースでもくれた方が理解しやすい。」


「お金を渡したら、お付き合いするの?」


「以前はしてた・・・。
今はしていないぞ。
俺は研究一途だからな。」


「ぷっ、嘘ばっかり。
じゃ、私もいっぱいお金を持ってきた方が扱いがいいのかしら?」


「そうだな。手土産くらいはほしいな。
って、冗談だ。
君は奈々を連れて早くきてくれればそれでいい。」


「先生?」


「ごめん、ちょっと飼育しているヤツらの記録をとる時間なので、行ってくるよ。
キッチンに先に行っててくれ。」


明日奈はもうすっかり慣れたキッチンを眺めながら、いつここに戻ってこれるんだろうかと考えていた。

(父も兄も妹も私がアシスタントをやめることは許してくれるだろう。
でも、獣医志望でここに住みたいなんていったら・・・許してくれるかしら。

それに先生は私のことをどう思ってるのかな。
来てほしいっていうくらいだから嫌われてるわけじゃないのよね。

どのくらい好きでいてくれてるのかな。
ここにきて、先生が結婚することはないのかな。
年だって9つも違うし・・・私なんて学生の扱いと変わらないかも。

もしかして・・・勉強中に先生が別の女性と結婚しちゃったら・・・私の夢って何になるのかな。)



「ごめん、エサやってきた。
さて、今日は明日奈さんのオススメってあるかな?
今日のテーマは牛肉だぞ。」


「まぁ、立派な肉。
あれ、もしかしてこれも試験場あたりから?」


「違う違う!牛肉は熟成してなきゃだめだろ。
これはちゃんとした食肉用のさ。
2週前に結婚した友人の祝い返しってやつ。
けっこう仲良かったやつで、お祝いを奮発したら、俺の好きな肉をくれた。」


「わぁ、それならボリュームがあっておいしいお料理にしなきゃね。」
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