知ることから始まるんだ!
幸樹はお皿に入った卵焼きや漬物、焼き魚などを明日奈の食卓前に置いた。


「あのこれ・・・先生が?」


「朝はお手伝いさんは後で来るからね。
この卵は農学部の学生が飼ってる鶏の卵なんだ。
漬物になってる野菜も、魚も試験場経由でね、手に入る。
新鮮なものだから、食べてみなさい。」


「えっ、いいんですか?
はい、いただきます。
きゃっ・・・お、おいしいです。
塩味がそんなに強くないのに、おいしいですね。」


「だろう?調味料も最低限しか使ってないからね。
素材主体なんだ。

あ、でもいつもアテにしないでくれよ。
俺も学会の前とかは眠くて作れないから・・・その・・・。」


「はい、そういうときは私が作ります!
いちおうフードコーディネーターですから。」


「ああ、そうだったね。
じゃ、お願いしたい日付を先に伝えておくよ。
冷蔵庫の中のものは、自由に使ってくれていいから。
あ、俺の部屋の外に置いてある冷凍庫は開けないように。」


「部屋の前の冷凍庫ですか?」


「うん、そっちはネズミの肉とかエサようの鶏肉とかあるんで・・・」


「あ、わ、わかりました・・・。
それ以上もう言わないで!」


「1つだけ言っておくけど・・・」


「はい、何でしょうか?」


「俺に腹がたったらメモに書いてここに置いておいてほしい。
それだけだ。そろそろ行ってきます。
8時ごろになったら、お手伝いさんが来るので食器とかは流しに置いておいてください。」


「どうして腹がたったらメモ書きなんですか?」


「口をききたくないだろう?
だけど、出られる方にとってはなんで嫌われたかわからない程、嫌なものはなくてね。」


「今からそんなことを・・・?」


「うん、けっこう俺には必要なことだから。
じゃ、いってきます。」


「いってらっしゃい。」


(ぶっきらぼうだけど、優しそうな先生なのに・・・。
嫌われるの?
それに、なんか悲しそうな顔してたわ。)


それから、1時間ほどたってから運転手が車で迎えにきて明日奈は父のいるクッキングスタジオへと出かけていった。


スタッフが温度やお客様に料理を出すタイミングを狙って今日も会場はピリピリした雰囲気だ。


「明日奈、冷たいスープとサラダの用意はできているな。」


「はい、所定の場所に待機しています。
入り口から、お客様の入場を知らせる合図も入りました。」


「よし、では配膳係りはお客様がお座りになったら順に料理をお出しして・・・。
え??はっ、明日奈!!後ろだ。」


「なぁに、お父様?」


「やっと触れることができたな。
明日奈・・・俺と帰ろう。」


「いや、離して!私はそういうお付き合いはしないの。」


「そういうと思って俺から離れられないようにしてやるつもりで来たんだ。」
< 4 / 67 >

この作品をシェア

pagetop