知ることから始まるんだ!
亡き母の思い出
明日奈は獣医になる勉強をしながら、毎日時間が許す限り、父の病院へ見舞っている。

ストーカーの用心もあり、見た目は変装して、幸樹、祥万、ライエル、輝彦、そして雇っているボディガードのいずれかをといっしょに出かけていた。

「今日は、ライエルたちは仕事でそのあとデートだそうだから、俺がいっしょに行くよ。」

「先生、いいの?今、忙しいんじゃ?」


「祥万から今日のことは頼まれてたから、昨日仕事は片づけておいた。
帰りも買い物して帰ろう。」


「まぁ、どっちが主婦だかわからない発言!」


「俺が主で主夫でもある。君は今のところ、下宿人ってとこだから。」


「そ、そうなんだ。」


「早く、犯人たちが捕まるといいな。
君ももうテレビには出てないし、あと1年もすればどこだって自由に歩けるだろう。」


「そうね、街を自由に歩いて、買い物したり遊んだりしたい。
でも、取り巻きがもう誰もいない状態ってどうやって歩いたらいいのかなって。」


「なぁ、明日奈はもしかして、ひとりで歩いたことがないの?」


「し、失礼ねっ!そりゃ子どものときは・・・あれ?・・・そのときは・・・使用人の誰かがいたわ。
あ、どうしよう。ひとりで歩いたことがない。
ごめんなさい・・・変な子で。」


「いや、謝ることはないよ。
明日奈はちっちゃいときからすごくかわいかったんだろうなって思っただけさ。
ひとりで歩いたりしたら、誘拐されてしまうようなかわいい娘だったんだね。
それにしては、食材の値段とかよく知ってるなぁ!そういえば・・・」


「ええ、家族以外と出かけるとね、スーパーとか商店街でいろんなものを見るのが大好きだったの。
だから、テレビに出るようになってからもね、パソコンでネットショップとかチラシの広告とかながめるのが趣味だったのよ。」


「なるほどねぇ。
それで、高級食材じゃないのに、スイスイと買い物してたわけか。」


「びっくりした?この技はね、先生んちにいるゴハンを待っている生き物用の食材を選ぶ時も役にたってるのよ。
同じものなら、安い方がお得でしょ。」


「はっ・・・そ、それでか。最近、エサ代が安めで安定してると思ったら・・・。
そうだったのか。ありがとう・・・助かるよ。
邸を維持するだけでも、俺の収入じゃギリギリだから。
今は君たち下宿人の家賃のおかげで、少し潤う部分もあるけどね。」

「内情が苦しくても、売らずに住み続けているのは、お母様の思い出があるからでしょう?」


「ああ。ユーモアにあふれていて、この家の仕掛けをすべて知ったときには、なんで生きていてくれなかったのかと何度も思ったけどね。」


「そんなここって忍者屋敷なの?」


「へっ?忍者屋敷・・・はははっ・・・そうだな。」
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