知ることから始まるんだ!
幸樹たちは明日奈のいる家へと移動した。

明日奈は充といっしょにおやつを作って食べていた。


「あっ・・・先生。」

「明日奈、兄さんにもっと詳しく話しておいてくれたらよかったのに。」


「ごめんなさい。お母さんの葬儀や相続のことでごたごたしていたものだから。」


「何か困っているのかい?」

「先生・・・急に勝手なことをしてごめんなさい。
きちんと話をしに帰るつもりだったけれど、充くんを放っておけなくて。
それに母と約束しちゃったから。
最期の力を振り絞って・・・私は・・・充くんのことを頼まれたから。」


「明日奈はそれでいいのかい?
産みのお母さんとの約束を果たすのは、何をおいても第一にしなきゃいけないことなのか?
カメの奈々を床に落としても、奈々の命より充くんが優先なのか?」


「それは!奈々は・・・ここに連れてくるよりも先生に育ててもらう方が幸せでいられると思ったから。」


「そうかな?」


「きっとそうです!(ううん・・・奈々を見ると先生のことを思い出しちゃうから・・・私は。)」


「で、明日奈、お母さんの借金はどのくらいあるんだ?
兄さんも優奈も心配してる。
こういうときこそ、兄妹で助け合いだってしなければ。
父さんだって心配してた。金銭面なら何とかなるといってた。」


「それはダメ。ふたりでどうなる問題じゃないもの。
それに充はまだ小さいし・・・。」


「君は母親になれると思っているのかい?」

「えっ・・・!?」


幸樹の言葉に明日奈は驚きを隠せなかった。

(先生が私をバカにした!?)


「充くんは見た目だけ母親に似た女性をすぐに新しい母親として認められるんだろうかね。」


「それは生物学的なお話?」


「ぜんぜん関係なくもないが・・・動物は本当の母親が拒絶した子は死が待っている。
だから人の手を貸してやることがあるが、親戚にあたる同種を母とは認めていない。

1つわからないことがある。
君のお母さんがどうして君の弟である充くんと年下の内縁の夫が君と家族になるような遺言を残したのか?」


「私にもわからないわ。
実を言うと、私は母のことはほとんど憶えていないの。
私の目の前からさっさとひとりでいってしまったから。

風巻の家のお母さんはひとりだと思ってるの。
崇兄さんと優奈のママだけ・・・。
ううん、ママは私にも優しかった。
実の母親に置いてきぼりにされた私を根気よく慰め続けてくれたの。」


「あのさ、風巻のお母さんが亡くなってからどうしてお父さんは君のお母さんと何も連絡をとってないのかな?」

「それは・・・怖くてお父様にきけてないの。」


「怖い?もしかして・・・君はお父さんの娘じゃないんじゃないかと思ってるとか?
そうなんだね。」

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