知ることから始まるんだ!
明日奈は驚いて幸樹の顔を見た。


(なんてお子様的発想なの!!そんなカメレオンの幸太郎が私がいないからさびしいって泣くわけないじゃない!)


「カメレオンの幸太郎のせいにするの?」


「ごめん・・・大人げなかった。
さびしいのはたぶん、俺だ。
こんな言い方しか俺はできない・・・。」


「仕方ないですね。ストーカーにおびえて暮らすのも嫌ですし、もう少しお世話になります。」


「どうぞ、好きなだけ使っていい。
俺はいつもと同じように研究してるだけだから。」



明日奈は幸樹の家から兄の店へと通うことになった。

兄の崇の店は明日奈がかわりに切り盛りしていても大盛況で、とくにスィーツに女性客のファンができた。

明日奈は店が終わってから崇のお見舞いに通っていた。



「明日奈、退院の日が決まったよ。
来週早々には、俺も店で働けるよ。」


「よかった。兄さん。
私を守ってくれたときはほんとに心配で、私の方がお店のおかげで落ち込まなくて済んだ部分が大きいの。
なんだか、もう店に立てないかと思うと悲しくなっちゃうわ。」


「それなんだけどさぁ。
病院で、マスコミのヤツらの話をきいて・・・あのな、あのストーカー野郎は近々、出てくるらしいんだ。
それで親父にも言ったんだが・・・しばらく俺と店で働いてくれないか。」


「あ、私はお店は好きだからかまわないし、父さんの許可もあるんだったら、ぜひ。」



「おお、よかった。
店の評判きいたよ。
スタッフたちからいろいろきいたけど、明日奈の料理の手際のよさは最高だってさ。
さすが、親父のアシスタントだけのことはある。
うちの看板娘としてがんばってくれよ。」


「任せといて!」


崇が店に出るようになっても、明日奈の評判は上がる一方で、店内ではときどき男性客が明日奈に誘いをかけてくることが多くなった。



「もうかなり通ってるんだ・・・。わかるよね。
そろそろ夜に付き合ってくれてもいいんじゃない?」


「私はそういう仕事はしていません!」


「かたいこと言うなよ。
勤務時間外は何をしてもいいんだろ?
兄弟であってもプライベートな時間を制約するのはいかがなものかなぁ?」


「私が遠慮したいといってるんです!
お店をごひいきにしてくださっているのはお礼をいいます。
でも、私のプライベート時間は・・・」


「くだくだ言ってないで、ついてくればいいだけだ。
ほら、来いよ。」


「いやっ、離して・・・。」


隣のビルに配達をしてもどってきた崇が、バイトの店員に事情をきき、あわてて店の出入り口に出てみると明日奈を引っ張って行った男は、自分の頬をおさえながら逃げ去っていくところだった。

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