純愛デビュー
保健室の前まで来ると
速水君はあたしを静かに下ろして
中へ入った
幸い1時間目の最中で
誰にも見られることはなかったけど
転校早々サボり...なんて
優等生だったあたしにとって初めての経験で
少し心配。
「速水君と...」
「彼女転校生なんで」
「あらそう!これまたお人形さんみたいな華やかな子ねぇ...」
保健室のおばさん...
というより、お姉さんのほうが正しいのかな
高校の保健の先生にしては
若くてあたしたちと少ししか離れてないであろう
見た目の先生が
入ってきたあたしたちを見るなり目を丸くした
それにしてもこの様子だと
速水君のことをよく知っていそうな雰囲気
先生はあたしをイスに座らせると
膝にあたしの足を乗せて
まじまじと大きな瞳で傷をみている
「真っ白くて細い綺麗な足に...なんてこと」
どうしたのこの傷?
なんて薬箱をあさりながら
チラッと先生はあたしをみた
「あ...そう、転んだんです」
「あなたってば可愛くてドジなのねぇ」
あたしたちのやり取りを速水君は
だまって聞いていた
あたしの為なんかに速水君を道連れにしちゃった
「速水君、もうあたし大丈夫だから戻っていいよ?」
ツーンと鼻に抜ける消毒液の匂いがして
傷にヒリヒリと染みる痛みをこらえて
速水君を見上げると
伏せめがちな瞳でまっすぐあたしを見てから
「どーせ今行っても寝るだけだし、俺」
ため息混じりにそういうと
近くの開いたベッドに腰をかける
キシッとベッドが歪む音がした。
「速水君って毒のあるキツイことを言っているように見えて、本当は心優しいのよ」
ねぇ?と
あたしに振られて
なんとなく「はい」と頷くと
「違いますよ」
さっきみたいにフッと小さく笑った速水君が視界に入った
こんな風に笑う人なんだなぁ
いつも笑ってたらいいのに
もっとこの笑顔みてたい....
「はい、これで大丈夫!まだ痛むようならまた来てね」
先生がポンッとあたしの肩を叩いたと同時に
1時間目終わりのチャイムが鳴って
立ち上がると同時に速水君はサッと近づいてきて
あたしの腕を掴んだ
「歩けるか?」
「あ...うん大丈夫」
いきなりのドアップ
しかもあたしを心配そうにみる
その大きなタレ目にまたドキッとして
俯きがちに頷くと
「じゃあ戻るか」
掴んだ腕を放して少し前を歩き出した
「失礼しました」
あたしも後ろを歩き出す