純愛デビュー
2時間目前の10分休みは
みんな廊下に出てにぎやかで
広くもない廊下は多くの生徒で埋まっていた
一人ならスイスイと前に進めるのに
速水君は後ろを歩くあたしを何度も振り返って確認しながら
ゆっくりと歩いてくれた
そんな背の高い細身だけどがっちりした後姿をみて
ニヤッと緩んでしまう口元を隠すように
何度俯いたことか...
なんとか教室の前まで来ると
速水君は何もなかったように
平然と教室に入って行って
あたしの隣の席に座った
あたしはなんとなくドアの前で立ち止まっていた
窓際にはちらっとあたしをみる理恵ちゃん達
だけど興味もなさそうに目線をそらすと
楽しそうに話していた
「カンナ~!!」
すると教室から驚いた顔の
ゆりが駆け寄ってきて
あたしをぎゅっと抱きしめる
「えっ...ゆり?」
あたしの肩に顔を埋めて。
「ゴメンネ...カンナ」
「どうしたの?」
ゆりはゆっくり体を離すと
大きな目に涙を溜めていた
「気づいてあげられなくて...ゴメン。理恵たちから言われてたこと」
「聞いたの...?」
「うん、早瀬君に。教室で様子見ててって言われたら朝からカンナいなくて...理恵たちもいなくて」
「そっか...でも、大丈夫だよ?」
あたしはニッコリ微笑んで
ゆりの涙を優しく拭った
「足...」
「あっこれは、転んだだけ!」
「そ...うなんだ。でもごめんね」
「いいの!心配してくれてありがとうねゆり」
あたしはもう一度ぎゅっとゆりに抱きつく
「いい匂いする~髪の毛サラサラ~カンナ~すき~」
それからはもう理恵ちゃんたちが
何かをしてくることも言うこともなくなった
ゆっくりと時の流れるこの田舎
季節は気がつけば夏になって
夏休みまであと1週間
そんな中
あたしの速水くんへの想いだけが加速していった