純愛デビュー




夏休みを前日に控えた昼下がり


午前授業で終業式を終えて玄関に向かうと


「カンナ!」


「あっ拓真」



久しぶりに拓真に会って

一緒に帰ることになった



「昼飯どっかで食べるか」

「うん、いいよ」




小さなこの田舎にある唯一の

ファミレスに向かうと

我が校の生徒ばかりで


なんだか笑ってしまった





「何食う?」

「ん~このパスタにする」

「なら俺も」

「なんで同じなの?」

平然と同じものを注文する拓真に

笑いかけると

"俺、優柔不断だから"と



拓真らしい返事がかえってきた


「最近どうよ」

「なに、急に」


水をゴクッと飲むと頬杖をついてあたしをみた

「いや久々じゃん?」

「たしかに」

「俺は明後日から野球一色だよ」


「あれ、明日はないの?」


「そう、明日オフ!最高じゃね?祭りだぜ」

「あっ...そうだった」


気がつけば...明日か

すっかり忘れていた...のは

祭りに行く習慣がないからかな


「忘れてたってお前...行かないの?」

拓真は目を丸くした


「うん、約束してないし」

「なら...一緒に行こうぜ」


「えっ」


拓真は少し照れたように笑って

坊主頭をかいた


「いや男と行っても暑苦しいし?」

「なにそれ」

「それにカンナぼっち可哀想だし!」

「余計なお世話です~」

「まぁいいからいくべ!」

「う...うん」

「っしゃ!」



小さくガッツポーズをした拓真が

なんだか可愛くて

思わず笑うと「なんだよ」と

困った顔をしていた



祭り...ゆりの思い通りになっちゃったな


けど行くとなったら楽しもう



「お待たせしました」


パスタが来ると

あたしと拓真は無心で食べ続けて

しばらくうなだれてから


早いうちに帰宅した。



< 35 / 42 >

この作品をシェア

pagetop