純愛デビュー
夏休みを前日に控えた昼下がり
午前授業で終業式を終えて玄関に向かうと
「カンナ!」
「あっ拓真」
久しぶりに拓真に会って
一緒に帰ることになった
「昼飯どっかで食べるか」
「うん、いいよ」
小さなこの田舎にある唯一の
ファミレスに向かうと
我が校の生徒ばかりで
なんだか笑ってしまった
「何食う?」
「ん~このパスタにする」
「なら俺も」
「なんで同じなの?」
平然と同じものを注文する拓真に
笑いかけると
"俺、優柔不断だから"と
拓真らしい返事がかえってきた
「最近どうよ」
「なに、急に」
水をゴクッと飲むと頬杖をついてあたしをみた
「いや久々じゃん?」
「たしかに」
「俺は明後日から野球一色だよ」
「あれ、明日はないの?」
「そう、明日オフ!最高じゃね?祭りだぜ」
「あっ...そうだった」
気がつけば...明日か
すっかり忘れていた...のは
祭りに行く習慣がないからかな
「忘れてたってお前...行かないの?」
拓真は目を丸くした
「うん、約束してないし」
「なら...一緒に行こうぜ」
「えっ」
拓真は少し照れたように笑って
坊主頭をかいた
「いや男と行っても暑苦しいし?」
「なにそれ」
「それにカンナぼっち可哀想だし!」
「余計なお世話です~」
「まぁいいからいくべ!」
「う...うん」
「っしゃ!」
小さくガッツポーズをした拓真が
なんだか可愛くて
思わず笑うと「なんだよ」と
困った顔をしていた
祭り...ゆりの思い通りになっちゃったな
けど行くとなったら楽しもう
「お待たせしました」
パスタが来ると
あたしと拓真は無心で食べ続けて
しばらくうなだれてから
早いうちに帰宅した。