純愛デビュー


翌日、

拓真から5時に迎えに行くと連絡が来て



あたしは夕方シャワーを浴びてから


おばあちゃんに綺麗に着付けを頼んで


自分の部屋のドレッサーに座って


慣れた手つきで耳の横で長い髪の毛を1つにまとめて


持ってきたかんざしをさした。



そしてここに来てはじめて綺麗にお化粧を施していく


東京にいるときは


お父さんのいつも綺麗でいなさいという教えから


毎日髪を結いでお化粧もきちんとしていた


けどこの田舎にその容姿は到底合わなくて


すっぴんで髪の毛もブラシでとかすだけの


素のあたしでいたんだ



だから...久しぶりにお化粧で


整った自分の顔を見ると


自分が自分ではないみたいで

すごく大人びて見えた



お化粧が完成して

巾着にお財布と最低限の荷物を入れると


大きな姿見の前で全身を写す。



そのとき短いノックの後ガラッとドアが開いて


ゆっくり振り向くとおばあちゃんが


びっくりした顔であたしを見つめていた。



「おばあ...ちゃん?」

「美和子...」

「えっ?」

「美和子そっくりだ...カンナ」


おばあちゃんは少しくぼんだ二重の目に


溢れんばかりの涙を浮かべてから


優しくあたしを抱きしめた




「綺麗だよカンナ」

「おばあちゃん...ありがとう」



おばあちゃんの温もりはいつだって

温かくて柔らかいけど



今日は格別でふっくら優しかった



「そうだ、迎えに来ていたよ。拓真だっけなぁ?」

「あっ...もう時間だ、あたし行くね」


「楽しんできなさいよ」

「ありがとう」



門をくぐって外に出ると

少し暗くなった夕暮れ道に

拓真が立っていて


あたしを見るなり一瞬目を見開いたけど


またすぐいつもの優しい笑顔で近づいてきた











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