アイザワさんとアイザワさん

「お疲れさまでーす!」
そう元気よくお店に入って来たのは日夕勤の木村(きむら)くんだ。彼は新店には残らない。

……この、裏切り者め。


「仕方ないっすよ。俺、大学の授業の合間とかにさくっと入れてもらってたりしてたじゃないですか?合わせると結構おいしかったんですよ。あれがないと厳しいんで。」


お金に困ってるワケじゃないだろうけど、臨時収入が減るのは厳しいんだろうな。あらためて生方さん家のありがたみを知る。
玲子さんが亡くなってから、シフトの穴埋めをしていたのは、主に鞠枝さんだった。

これからは、私がその穴を埋めなければいけない立場になる。


「あ、俺次のバイト決まりました。」木村くんはあっさりそう言った。私も茜さんも驚く。
スタッフに生方家が経営者じゃなくなる、という話をしてから、まだ3日しか経っていなかった。


「若いって……いいよね。」茜さんが恨めしそうに呟く。彼女は30代だ。新しいパート先を……と思ってもなかなかそうはいかないんだろう。


「今度もコンビニで働くの?」と聞いてみた。

「いいえ。カフェです。」

「カフェって、もしかして『Felicita(フェリーチタ)』?!」

< 10 / 344 >

この作品をシェア

pagetop