アイザワさんとアイザワさん

キスの後に一旦身体を離した相澤は、眼鏡を外してサイドボードの上に置いた。次にゆっくりとネクタイを緩めていく。

それは、明らかな『はじまり』の合図のように思えた。


私は、その様子をまともに見ることができず、目をふせた。


「逃げないんだな。」

耳元でかけられた言葉に、慌てて顔を上げる。私を間近で見つめる相澤と目が合った。


その顔が冷たい表情だったり、意地の悪いものだったら、たぶん私は相澤を突き飛ばしてこの場を逃げ出せていたのかもしれない。


だけど、相澤はなぜか苦しそうな顔をしていた。眉を寄せ、なんだか泣き出しそうなほど苦しそうな表情だった。


その顔を見た瞬間……私は不思議なことに逃げ場を失ったと感じた。


抵抗する心がしぼんでいく。心を暴かれて、ゆさぶられて……捕らえられた気がした。


「逃げないなんて……ほんとにバカだ。」


そう言って相澤は私を押し倒すと、ブラウスのボタンを外して胸元を開き、そこに口づけを落としてきた。


キャミソールを捲りあげ、ブラが外される。
大きな手が胸を覆い、熱い口唇と舌が、もう片方の胸を刺激していった。


「はっ……あっ、あんっ」



私の口から絶え間なく喘ぎの吐息が漏れるのを聞きながら、目の前の男は次第にその行為に没頭していった。


< 110 / 344 >

この作品をシェア

pagetop