アイザワさんとアイザワさん
身体を開かれて、彼を受け入れてもなお、私には相澤に『抱かれている』という実感が沸かなかった。
「あっ、あっ、あっ、……」
自分の口から切なげな吐息が漏れだしても、私の頭の中はまるで他人ごとのようにぼんやりとしていた。
これはお互いを分かり合った上での甘い行為ではなく、
無理やり私の身体を傷つけるための、苦くて苦しい行為でもなかった。
相澤は私に『興味』を持って、私はそれを受け入れた。……ただ、それだけのことだった。
鞠枝さん……相澤は私のことを好きじゃなかった……ただ「興味」を持っただけだったの。
私の心と身体はちぐはぐで、現実に全く感情が追い付いて来てくれなかった。
ただ、相澤が最後を迎える瞬間に「……初花、初花っ……」と何度も私の名前を呼びながら、見たこともないくらい切なげな表情を浮かべたのを目にしてしまった時だけは……胸が軋んだ。
『愛情』がないのに、どうしてそんな苦しそうな顔をするの?
その切ない顔を見た瞬間に、私の心の中にあった小さな芽から、相澤に対して何かしらの感情が育ってしまったのがはっきりと分かった。
でも、この感情には……私はまだきちんとした名前を付けることができない。
私は深い混乱の中にいた。
相澤 樹 ……あなたは誰?
私の何を知ってるって言うの?
そのまま……私の意識は遠退いていった。