アイザワさんとアイザワさん
医者になったのだって何か志があったワケじゃない。勉強は人よりもできた。医者を目指せるくらいには。ただ、それだけだ。
瞬はちゃんとした情熱を持って医者になった。
病院だって、こいつが継げばいい。
だからあいつは『若先生』と呼ばれるようになった。みんな瞬のほうが後継者だと口には出さなくても分かってたんだろう。
俺は見た目だけで、ライオンみたいなボサボサの髪だったから、『レオ先生』とあだ名をつけられた。自分で作りあげた姿だったから文句も言えなかったけど、ひどいもんだよな。
どうやら俺には『人望』というものも無かったらしい。
インターンを終えて、水元医院で働き初めてすぐ、長年自分を誤魔化し続けたツケが回ってきたと知った。
人の心に寄り添って、心を許してもらい、冷静に、客観的に判断しながら、人生を取り戻すための力になる。それが精神科医の仕事なんじゃないかと思う。
俺にはそれができなかったんだ。
今までに作り上げたのは外側だけで、中身がからっぼだったことに、俺はようやく気がついたんだ。