アイザワさんとアイザワさん
アルバイトから社員になるための勉強がなかなか進まなかった時に、気晴らしにと茂之お父さんがいつも飲みに連れて行ってくれたことを思い出した。
「嫌なことは飲んで忘れなさい」が茂之お父さんの口ぐせだった。私がお酒が強いのは、お父さんに鍛えられたからかもしれない。
……何か知ってる訳じゃなさそうだけど、忘れたいくらい『嫌なこと』がある今の私には、このルビー色の液体の存在はありがたかった。
「ありがとうございます。」と満面の笑みで受け取った。
今日は昼までのシフトにしてもらっていた。
午後から源ちゃんと一緒におばあちゃんのお墓に行くためだ。
……帰ったらボジョレー祭りだ。
そういえば去年までは鞠枝さんと一緒にワインを飲んでいたのにな、とちょっと寂しい気持ちになった。彼女は子どもにおっぱいをあげているので、まだ禁酒中だ。
その前までは、玲子お母さんも一緒だった。
ちょっとずつ、私の『心の家族』の形が変わってきている。私はそのことに気づきながらどうすることも出来なかった。
……だって私はほんとうの家族じゃないんだから。
『家族』には当たり前に言えるように、寂しいから一緒にいてくださいなんて言うことは出来なかった。