アイザワさんとアイザワさん

呆然と立ち尽くしている茜さんに、私は「レジ、できますか?」と声をかける。


遠巻きに見ている人達もいたけど、2、3人がレジに並んでいた。


「あ、でも、救急車を……」


と言いかけた茜さんの言葉を遮って、「救急車なら私が呼びます。……飲んでる薬もかかりつけのお医者さんも知ってるから。」と話した。



源ちゃんが目の前で倒れている。こんな時なのに、ひどく冷静な自分に驚いていた。


茜さんは真っ青な顔でレジへと戻っていく。

「ミスのないように、お願いします。」

私は茜さんに一言だけ言うと、すぐに救急車を呼んだ。



相澤はそんな私の様子を見ながら、源ちゃんに声をかけ続けていた。


源ちゃんに相澤の声は届いてるようで、時折目を薄く開けている。……だけど、段々反応が鈍くなってきているようだった。


私は、その様子を見た瞬間に急に恐怖に襲われた。目の前で、また大切な人が……消えてしまうかもしれない。


そう考えたら、血の気が引いた。



その時だった。



「源さん……源次さん。まだ、あなたを翠さんの所へは行かせません。お願いです。目を開けてください。」


そう、相澤が言った。



その言葉を聞いて、意識が薄まってきているはずの源ちゃんの目が大きく見開かれた。


動かせないはずの口がゆっくりと動く。



「せんせい」



言葉にはならなかったけど、そう口が動いたのがはっきりと分かった。

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