アイザワさんとアイザワさん

4年前の12月の記憶〈樹〉


俺は12月になると、どうしようもなく寂しい気持ちになる。

10歳の時の記憶を思い出すからだ。

クリスマスを『家族』で過ごし、瞬と俺が寝た後でリビングで両親が交わしている会話を……寝付けず起きてしまった『僕』は偶然耳にしてしまった。


「瞬だけじゃなく、樹も連れて行ってくれ。」
「あいつは、医者には向かないから。」


そう父さんが母さんに言っていた。父さんが口にした言葉の意味はその時は分からなかったけど、年が明けてから『お父さんとお母さんは離れて暮らすことになった』と両親から告げられ、お母さんと一緒に暮らそうと言われた時にあぁ……そういうことだったんだ、と納得した。


僕は父さんから必要とされてなかった?

違う。父さんだけじゃない、母さんが瞬だけ連れて行くつもりだったなら、僕はどっちからも必要とされてなかったんだ……


『僕』は両親から必要とされていない人間だ。
その時は、ただその事実を受け入れるしかなかった。


俺は10歳で人生を諦めた。
『人生は面倒だ』。全てどうでもいいことだ。
そう思わなければ生きていけないような気がした。


医師になったのはなんとなくだと思っていたけど、今思うとそんな父を見返してやりたい気持ちが強かったのかもしれない。

意地だけで目指した道は、医師になった時点であっという間に頓挫した。


空っぽの自分。
ちゃんと目標を持って医師になった瞬。


どちらが『水元』にとって必要かなんて、考えるまでもないじゃないか。
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