アイザワさんとアイザワさん
ボランティアという立場を忘れて自分のことしか考えていない裕美をさすがに放っておけず、注意しようと隣に座った。
裕美は看護師達とお喋りしながら『やっと来てくれた』という顔でにこりと笑った。
……全く悪気がないから、怒りにくいんだよ。
ため息をつき、どうやってこいつに話したらいいのかと考えながら口を開こうとした時、反対側の席から、ぶつぶつと何か呟く声が聞こえた。
何だ?そう思って視線を向ける。
呟いていたのは翠さんだった。
しっかりしている彼女には珍しく、目の焦点が合っていない。その目はどこも見ていないように見えた。
……何を言っている?
耳をすますと、「……お出かけなの?佐知子は今日も遅いし、おとうさんもいないし、困ったねぇ……」
「危ないから、おばあちゃんも一緒に行かなきゃねぇ……」
どうやらさっきの会話の中で『相沢 初花』が『出かける』という所だけ彼女の中にインプットされてしまっていたようだった。
いつも穏やかな表情の翠さんにしては珍しく表情が固く、その声には抑揚が無かった。
その能面のような表情が心に引っ掛かった。
……何だかまずくないか?これ。