アイザワさんとアイザワさん

「……分からない?違うわね。深く考えようとしてないだけ。違う?」


鞠枝さんの真剣な表情に、心臓が騒ぎ出す。


「……やめてください。」

思わず口にしていた。


鞠枝さんの言いたいことは本当は分かってる。
でも……でも……


「まだ……まだ考えたくないんです……だめですか?」

「考えなきゃいけないタイミングは……鞠枝さんなら分かりますよね。……その時は教えてください。」


そう口にして、私は鞠枝さんとの会話を終えた。


***

私の心の中には箱がある。

昔ある人に教えてもらった。

心の中は一つの部屋だよ。
受け止め切れない辛いことや、苦しいことは、一旦箱を作ってそこに仕舞いなさい。


『もう大丈夫。』と心が思ったタイミングで開くんだ。無理をして向き合ってはダメだよ。
心がオーケーを出すタイミングがきっと来るからね。


私はまだそのタイミングに気づかない。
だから、蓋は閉じたまま。
パタン、と閉める。
しっかりと押さえつける。

そして、何度も鍵をかける。


……飛び出してしまうことのないように。



だって取り出すタイミングは、今じゃない。


だから私は今の環境にまだ甘えたい。


ぬるま湯は湯槽の形が変わっただけでしょう?


……だったら、私はまだ浸かり続けたい。

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