アイザワさんとアイザワさん

グレーがかった髪を後ろに撫でつけて、スーツを着た細身のその姿は、還暦を過ぎているとはとても思えず、先日会った瞬先生の立ち姿とよく似ていた。


「やっぱり、親父かよ……。」相澤がため息をつきながら言った。


私達を待っていたのは大先生だった。


「大先生、お久しぶりです。」私は慌てて挨拶をした。この展開は予想外だ。


瞬先生といい、大先生といい『事前に知らせる』ということができないんだろうか、この人達は。


「初花ちゃん、久しぶりだね。」


先生は私ににこやかに笑いかけた後で、


「樹。どういうことか説明してもらおうか。」
と、同じように笑顔を浮かべたままで相澤に言った。


……なかなか迫力のある笑顔だった。


「説明も何も……見た通りだよ。俺達付き合ってるんだ。」


相澤はそんな笑顔に押されることなくきちんと言葉を返したけど、先生は納得していない様子だった。


「最初に約束したことを忘れたのか?龍臣だって何回かお前に言ってるはずだぞ。」


「……っ、それは……」


相澤が言葉に詰まる。
そう言えばうちの店に移動する前に、私に『手を出さない』と約束したって言ってたっけ。
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