アイザワさんとアイザワさん

「あら、でも店長のほうは30歳も過ぎてるし、しっかりと将来(さき)の事は考えてると思うわよ。しっかりしてるから『うっかり』することは無いと思うけどね。」


と、ちらりと鞠枝さんの方を見て茜さんが言った。


その問題発言に比べないでくださいよー、と笑いながら「すみません『うっかり』しちゃって。でも、今しあわせですから。」と、気にする様子もなく鞠枝さんが言葉を返した。


『うっかり』……
確かに彼はしっかりとした人だけど、それに関しては何回かうっかりしたこともあって……
そもそも最初なんて事故みたいなもんだったし……クリスマスイブの日だって朝まで何度も……


「おーい、初花ちゃん戻っておいで。」


茜さんの言葉にはっとする。……私、また全部顔に出てました?


「二人きりの時間を大切にしたいんだったら、『出産』が身近な話題にならないように気を付けるのよ。……今初花ちゃんにお店抜けられたら困るしね。」


やっぱり出てた……
恥ずかしさに、顔が赤くなっていった。


そんな私に付き合い初めって楽しいわよねー、なんて言いながら、

「初花ちゃん、うまくいってるんでしょ?」

そう聞いてくる鞠枝さんに、


「まぁ……順調、と言われればそうなんですかねぇ。」と私はちょっと曖昧な返事を返した。

……『うまくいってます』とちゃんと口にできなかったのは、ちょっと憂鬱な気持ちになってしまっているからだった。
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