アイザワさんとアイザワさん

昨日だって、冷たい態度を取ったり、逃げたりしたから呆れられて責めるような言い方をされるかもしれない。そう考えていたのに相澤はとても優しかった。


そのまま身体を引き寄せられて、えっ?と思う間もなく、ギュッと抱きしめられていた。


「昨日は仕事があったから……すぐに来られなくてごめん。」


そんな優しい言葉をかけられて、堪えていた涙が一気に溢れだした。
相澤のシャツに涙が染み込んでいくのが分かって慌てると、分かってるよ、といった口調で「いいよ。大丈夫だから。」と言われた。



シャツ越しに伝わる心地よい体温。シトラスの香り。いつもの優しい温もりに、黒い感情も薄れていって頑なになっていた心がちょっとだけ解けた。



「昨日一緒にいたあの人は……誰なんですか?」


あんなに何度も何度も口にしようとして言えなかったその言葉が、抱きしめられて安心した途端にするっと口から零れ落ちてきた。


「私、昨日だけじゃなくて、一昨日も鞠枝さん達と大通りのファミレスにいて……樹さんとあの人が一緒にいた所を見ちゃったんです……」
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