アイザワさんとアイザワさん

「初花さん、店長の弟さん格好良かったですねー。」

唯ちゃんが興奮気味に話すのを聞いて


「瞬先生は……やめといた方がいいと思うけど。」

と思わず止めてしまった。


初恋が『あれ』は、結構荷が重いと思う。


「やだなぁ、初花さん。『ときめき』と『恋』は別でしょー。」


唯ちゃんの独特な恋の捉え方に驚きつつ……じゃあどうやって『恋』に気がつくの?それじゃ一生『恋』はできないんじゃないの?……と思わず唯ちゃんの恋路が心配になってしまった。


***

日夕勤を終えてアパートに戻ると、樹さんが私の帰りを待ってくれていた。

「初花、お帰り。」

「ただいま…です。」

何年も言っていなかったこの言葉を口にするのはちょっと照れ臭くて…でも嬉しくて心がじわっと温かくなる。


私はバレンタインの日にチョコレートと一緒に彼にこの部屋の合鍵を渡した。


『誤解』して、不安になってしまってごめんなさいと謝りたかったのと、会う前にいつも気をつかって電話をくれる樹さんにいつ来ても大丈夫です、という気持ちを伝えたかったから。


樹さんは思った以上に喜んでくれて……こうして時々『家族』のように仕事終わりの私のことを迎えてくれるようになった。
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