アイザワさんとアイザワさん

「で、その話を誰が聞いてたって?」

「……唯ちゃんです。」

「夕勤夜勤まで広がるってことかよ……」

口止めはしましたけどね、と話す私にそんなの無駄だろ……と樹さんは目を覆った。


そう言った私だって『聞いたぞー』と話す九嶋くんのニヤニヤ笑いが目に浮かんでいるのだ。


鞠枝さんと茜さんには「ほんと、人騒がせねー!」と散々言われて恥ずかしい思いをしたのに、夕勤夜勤にまでこの話が広がると思うといたたまれない気持ちになってきた。


「瞬のヤツ……わざわざ俺の居ない時間に行きやがって……」


まだ柏谷さんだったら良かったのにと唯ちゃんが入るシフトを組んだところまで後悔し始めた樹さんを見て、ほんとにこの人は振り回されっぱなしなんだなぁ……と何だか気の毒になってきた。


「で、裕美からの手紙は読んだのか?」


とりあえずみんなに広まってしまうことには一旦目を瞑ることにしたらしい。ため息を吐きつつ樹さんが聞いてきた。


「読みましたよ。」

仕事終わりにすぐ読んだその手紙には、誤解をさせてしまってごめんなさいという事と、兄との間には特別な感情も含めて何もありません、という事が几帳面な字で書かれてあった。


「大体あの日だって、瞬が体調を崩してなかったら初花と会うこともなかったんだから……」


私へのプレゼントを買いに行った日に瞬先生が熱を出して、次の日に樹さんが夜勤だと聞いた裕美さんは自分が看病する!と言い張ったらしい。
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