アイザワさんとアイザワさん
「カフェラテお願いします。あとブレンドも。」
カウンター席の前を通りつつ注文して、一番奥の席へ座った。
『Milky Way』のカフェスペースは、カウンター席の他にテーブル席が5席だけのこじんまりとした作りだけど、この席ならカウンター席まで私達の会話が届くことはないだろう。
注文したコーヒーを運んで来てくれた木村くんが、源ちゃんにお久しぶりっす、と挨拶をした後で私の前にカップを置いた。それは注文したカフェラテではなくて、いつか陽介さんが『特別サービス』だと言って作ってくれたショコラの入ったラテだった。
「陽介さんが、初花さん疲れてるみたいだから甘いラテをどうぞ、って言ってますよ。」木村くんの言葉に驚きながらカウンター席の方を見る。
にっこりと……やや含みのある笑顔で陽介さんが手を振っていた。
また色々と見抜かれてしまっているのかもしれない……
「で、初ちゃん、一体何があってそんなに慌ててるんだい?」
源ちゃんにそう聞かれて、私はゆっくりと深呼吸をした。背筋を伸ばしてから、『父親』から電話が入ったことと、家に来なさいと言われたことを話した。
「孝(たかし)さん、帰って来たのかい?」
孝、とは私の『父親』の名前だ。
おばあちゃんが病気になった頃から父は単身赴任で他県へと行っていて、滅多に家に帰って来る事は無かった。