アイザワさんとアイザワさん

「俺がな、ついててやるから孝さんも少し持ち直せって、そう言ったんだよ。あん時は、みんな自分のせいだって思って苦しんでただろ?見てられなかったんだよ。……翠ちゃんも悲しむだろうしなぁ。」



そう源ちゃんが言ったのを聞いて、ふと思い浮かんだ人がいた。もう一人、自分のせいだと思って苦しんでいたのかもしれない人のことを。

「ねぇ、源ちゃん。もしかして、馨さんにも同じこと…言った?」



源ちゃんは静かにうなずいた。
「馨ちゃんも苦しんでたからね。それでも何度も家に来てくれてただろ?……見てられなくてね。」


引き離された、ってそう思っちまったよな。


そう言われて私は静かに首を横に振った。
あの時は辛かったけど、あのままだったら馨さんだってもっと苦しむことになっていたかもしれない。


「今は…これで良かったと思ってる。」


私はそれだけを伝えた。
あの時、一緒にいられたら、私がもう少し強かったら…何度考えたか分からないことだけど、もう終わったことだ。



そして、私がかつて捨てられたと思っていて、本当は戻りたいと思っていた『家族』の形だってもうここには存在していないのだと思った。


< 287 / 344 >

この作品をシェア

pagetop