アイザワさんとアイザワさん

『戻らない』と言った瞬間少し悲しげになった両親の顔がぱっ、と明るくなった。


「いつでも…いつでも帰って来なさい。」


お父さんが少し声を詰まらせながら答えた。


「おぅ、いつでも来いや。もう俺も年だから、草むしりは初ちゃんに任せたよ。」


源ちゃんも満面の笑みで言葉をかけてくれた。


そしてほら、佐知子ちゃん、とお母さんの背中をポンポンと叩いた。


お母さんは、しばらく声が出せない様子だったけれど……


「初花。……これ、持って行きなさい。」


そう言ってお母さんが紙袋を私の前に置いた。
何…これ?そう思いながら、差し出された袋を受けとる。


中をのぞいたその瞬間……私は目の前のお母さんの顔を驚きながら見つめた。


「おばあちゃんみたいにはなかなかできないけど……これでもだいぶましな味になったのよ。……あなたに食べさせたかった。」


お母さんが……これを?


紙袋の中には、いくつもの小瓶に詰められたマーマレードジャムが入っていた。


お母さんは、今まで一度も私達と一緒にジャムを作ったことなんて無かったのに。


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