アイザワさんとアイザワさん
私は、ここに来るまではずっと『家族』に捨てられたんだと思っていた。
向き合って話をするうちに、また『家族』として過ごしていきたいのだと、お父さんもお母さんもそう思ってくれていたんだと信じることができた。
お母さんの気持ちの詰まったマーマレードジャムを受け取ったこの瞬間に、小さい頃からの様々な記憶を思い出した。
それは『母親』に私は愛されていたんだ、という忘れることのない確かな記憶だった。
「……あなたの事を忘れたことはなかった。」
お母さんにそう言われた瞬間、私の目からはみるみるうちに涙が溢れて、頬を濡らしていった。
「春になって、夏みかんの実を見るたびに……母さんとあなたが並んで楽しそうに収穫して、ジャムを作っていたことを思い出したの。夏になっても、向日葵が咲くと母さんがあなたを呼ぶ声が聞こえるような気がして……どうしようもなく寂しかった。」
「秋だって、冬だって……ここにいると初花との思い出ばかりを思い出したけど…私からは初花に家に戻って来て欲しいって言えなかった。」
母はそう言うと、そっと私の手を握った。
「初花……『帰って来たい』って言ってくれてありがとう。……ほんとうにありがとう。」
そう言った母の目も涙に濡れていた。
私達はそれからしばらく、手を取り合って涙を流し続けた。それは、長年心に降り積もっていた思いを溶かすような涙だった。