アイザワさんとアイザワさん

「…なっ、なっ、無いです!無いです!!全然違いますってば!!」


仙道さんがいるから、口には出して言えないけど、そういう目で見られていたと思うと、なんだかとても恥ずかしい。

ちらり、と樹さんを横目で見ると、恥ずかしいような、複雑そうな、なんとも言えない表情をしていた。


もしこの場に仙道さんがいなかったら「一緒にするな!」とでも、言いたいところなんだろう。



固まってしまった私達を見ながら「あれー?違ったの?絶対そうだと思ったのにー。」なんて鞠枝さんが笑いながら話をしている。



そんな鞠枝さんの言葉だけでも突っ込みたいところなのに、仙道さんがさらに「鞠枝ちゃんはうっかりさんだねー。」なんて口にするもんだから、思わず「『うっかり』しちゃったのは仙道さんでしょ!」と口にしそうになって、慌てて口元を押さえこんだ。


こうして私達は、どうしようもなく恥ずかしい気持ちを抱えたまま、生方家を後にしたのだ。



***

「で、それがどうして店長を『こいつ』呼ばわりする話に繋がるの?」


茜さんは不思議そうに聞いてくる。


そう。確かにここまでは『うっかり』夫婦の勘違いに恥ずかしい思いをしたってだけの話だ。


問題はこの後、アパートに戻ってから樹さんが私に話をした事がもやもやを作った原因になったのだ。
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