アイザワさんとアイザワさん

誤魔化しても無駄だな、と思って「いつから気がついてたんですか?」と聞いてみる。


「年明けにデイサービスに行っただろ?その時に、初花は介護の仕事に戻りたいと思ってるんじゃないかなって、何となくそう感じたんだ。」


樹さんは、やっぱり勘の鋭い人だな、と思った。


確かにその通りだった。
おばあちゃんがいなくなってしまってから、私はもう介護士という仕事に未練は無くなったと思っていた。


だけど、5年ぶりに見た介護の仕事の現場は私にとってはとても楽しげで魅力的で……あの場所に立っていた時に心の中でこの中にまた戻りたいな、と自然と考えてしまっていたのだ。


「樹さんは、医師の仕事には未練は無いんですか?」


ついでにずっと気になっていたことも聞いてみる。


「俺はもう未練はないよ。経営の仕事のほうがやりがいもあるし、自分に向いてると思う。俺は医師には向いてなかったから。」

「水元は瞬が継ぐから大丈夫。俺は医師になるには……たぶん心が弱すぎたんじゃないかな。」


「初花は『家族』を取り戻しただろう?『夢』だって、諦めないで取り戻せばいいんだよ。」


何回だってやり直せるよ。
そう言って樹さんは優しく頭を撫でてくれた。
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