アイザワさんとアイザワさん
私はすぐに携帯を取りだして母親にメールをする。
『電話ありがとう。源ちゃんから聞いてると思うけど、私コンビニの副店長になったよ。毎日店に行かなきゃいけないから、そっちには帰れない。今の状況だと、お盆もどうなるか分からない。おばあちゃんのお墓参りはちゃんと行くから。』
送信、っと。
はい、連絡終わり。
『電話ちょうだい』だなんて。……電話したらしたで困るくせに。今さら『母親』のように振る舞うなんて。ばかにして。
メールを送り終えたその手ですぐに家の電話の『消去』のほうを選択する。
電話はご丁寧に聞いてくる。
『本当に消去してよろしいですか?』とでも言うように。
……いいよ。ついでに、この煩わしいやり取りも全部消して欲しい。
母親の声を聞いた日は、何だか心が落ち着かなくなる。
私は冷蔵庫からビールを取り出すと、ぐいっ、と一気に飲み干した。
苦味と炭酸で心の澱を洗い流すように。
いつもの私に戻れるように。
私は細かいことを気にしない、前向きで元気なヤツなんだ。
私は、この日何度も魔法のコトバを唱えて、魔法を自分にかけ続けた。