アイザワさんとアイザワさん

「あ、スタッフがコネ入社だって嫉妬すると思ってるでしょ? 大丈夫。うちのスタッフはそんな事気にしないようなおおらかな人達ばっかりだから。それにね、大人気の『樹先生』の婚約者を誰もいじめたりしないって。」


1月にデイサービスに行ってからというもの、樹さんの復帰を望む声が現場から、ひっきりなしにあがっているのだそうだ。もちろん本人にその気はないので実現はしないのだけど……


『レオ先生』じゃなくて、『樹さん』の白衣姿が見てみたかったなぁと私が密かに思っていることは、樹さんには内緒だ。


「俺は医院には戻らないからな。…大体、お前に初花を任せるのがいちばん心配なんだよ、俺は。」


手を出すなよ、樹さんは冗談っぽくそう言って瞬先生の肩に軽くパンチをしていたけど、なかなか本気の目をしていた。


樹さんは先日、大先生に会ってずっと気になっていた『過去』の出来事に区切りをつけてきた。


心が弱いからだと医師に向いていない理由を話した樹さんだったけど、大先生から言われた理由は『お前は優しすぎるから』だったそうだ。
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