アイザワさんとアイザワさん
真面目で優秀な樹さんを水元の方に残して、と言ったお母さんに樹さんも連れて行ってくれと言ったのは、優しすぎる樹さんが強引過ぎる自分の元にいると、父親の気持ちばかりをを考えて、自分を押し殺してしまうような子に育ってしまうかもしれない、と危惧したからだったそうだ。
やっぱり『離れる』ことにも理由があって、ちゃんとした愛情があった。
「これで、やっと区切りをつけることができたよ。」樹さんは晴れやかな表情で、そう私に報告してくれた。
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「研修、進んでるか?」
樹さんがスタッフルームに顔を出した。今日彼は、日夕勤のシフトだ。
それから、樹さんはシフトに入るまでの数十分で茜さんが全く理解できないと口にしていた『分析』の手順を、事細かくしかも丁寧に分かりやすく説明していき、シフトに入る頃には茜さんが大体の流れを理解できるまで研修を進めてくれた。
私の時は説教するばっかりで、ちっとも丁寧に教えてくれなかったのに…
そう私が呟くと「社員になってるヤツは出来て当たり前の事なんだよ。全くイチから始めてる人と同じ立場で言ってんじゃねぇよ。」
と、逆に怒られてしまった。
そのまま、樹さんはシフトへと入って行った。