アイザワさんとアイザワさん
6月はシトラスの香りがするんです。
6月後半。羽浦市はちょっと遅めの梅雨の時期を迎えていた。梅雨でも、ここ羽浦駅前商店街はアーケード街なので、各店はそれなりの賑わいを見せていた。
しかし、私の心は外の空のようにどんよりとしていた。
本日のシフトは日夕勤。「おつかれさまでぇす。」と挨拶をしつつ、店へと足を踏み入れる。
「あっ、おつかれさまです。」そうこたえてくれたのは4月に新しく入ったバイトの茂木 唯(もてぎ ゆい)ちゃんだ。美術短大に通っている彼女は就職はせず、フリーでイラストを描く仕事をしたいらしい。高校生や大学生は進学や就職で長くても2、3年で辞めてしまうので、彼女のようなフリーター希望(……は失礼かな?)は店にとってもありがたい存在だった。
「あれ?一人でレジやってんの?もう一人のヤツは?」
彼女は、無言でレジ横のスタッフルームへと繋がる扉を指差す。
扉を開けたらすぐの所に、揚げ物なんかをする部屋があるのだけど……
私はその扉を見て、またか……とため息を吐く。
そのままツカツカと歩を進めて、扉を開けた。
途端にフワッ、と香るシトラス系の香りに顔をしかめる。
「店長!ここでタバコ吸うのやめてくださいって何度も言ってますよね!」
「おぅ、相沢か。お疲れ。」
そんな私の睨むような視線と言葉を気にする様子もなく、目の前の男はタバコをふかし続けている。