アイザワさんとアイザワさん
「ねぇ、お父さん。あたしが結婚するって言ったらどうする?」
朝ごはんを一緒に食べながら、お父さんにそう告げると、目を見開いてそれから派手に咳き込んだ。
「もぅ、汚いなぁー。」
「鞠枝…善明くんと結婚するのか?」
善ちゃんとは、お父さん公認の仲だ。
付き合うことになった時に、別にいいのに…と言う私に「店舗の副店長と社員がお付きあいするんだから、オーナーにだって挨拶は必要でしょ。」と善ちゃんは譲らなかった。
付き合い始めで父親に挨拶をするというちょっと恥ずかしすぎるスタートだったけど、そんな(ちょっと頑固だけど…)誠実な善ちゃんとの付き合いは今日まで順調に続いてきた。
「…ちょっと言ってみただけだよ。」
ほんとうはもう既にプロポーズされたんだけど、何となくその事は言えなかった。
「そういう話が出てるんだったらちゃんと言いなさい。」
「はぁい。」
話し掛けたのは自分からなのに、そそくさと話を切り上げるなんて不自然だろうな…そう思いつつ、席を立とうとする。
「鞠枝。」
いつになく真剣な表情で呼び止められた。
何?と返事を返すと、
「お前が過去のことをいろいろと悔やんでいることは知っているよ。もしそれを気にしているんだったら、その役目はお父さんが引き継ぐから。鞠枝は自分のことだけ考えなさい。」